Sigsand Manuscript

ウィリアム・ホープ・ホジスンとその周辺

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「幽霊狩人カーナッキの事件簿」 W.H.ホジスン著  夏来健次 訳
創元推理文庫 東京創元社刊

が出ましたね。

 何だかんだ言って、ホジスンの作品の中では、「カーナッキ」は人気がありますね。
 まだ読んでませんが、完全新訳とのことで、特色としては、各エピソードのタイトルを大きく変えたこと、カーナッキが自分のことを「ぼく」と呼ぶこと、それに、著作権版として作成されたダイジェスト版が付録として収録されていることなどがあるようです。
 本邦初訳の作品が収録されているというので、何が収録されることになるのか、多少期待していたのですが、前もって発表されていた「探偵の回想」というタイトルを見て、まさかとは思ったのですが、やっぱりというか、これでした。「カーナッキもの」ばかりを集めた短篇集ですから、まあ、仕方ないですね。
 ホジスンの作品には、こうした著作権版が多いのですが、この辺りの事はkaneさんが詳しいです(このエントリーなどを参照)。
 kaneさん、何か付け足す事などありましたら、ぜひ(笑)。

(shigeyuki)

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   ▲寂しいが又るのだ

 人間といふ者は如何なる絶望ぜつばうの淵にしづんでも、全然ぜんゝゝ生の執着しうちやくなげうち得ないものである。余とても其通りで、惡魔あくま棲む絶海のほとりに、限られた生活せいくわつみちを辿りながら、尚ほ自家防衛の必要ひつえうを思ふて、怪物くわいぶつ來襲らいしふを防ぐためには、己の最善ベストつくすことを惜しまなかつた。それには恰度ちやうど蟹軍かぐんが船の甲板に這ひ上がつて手段しゆだんを見出したので、余は早速さつそくこれが防御方法はうはうかうじた。といふのは船首バウからボースプリツトが斜めに海に突き込んで居たばかりでなく、恰度ちやうど其處そこ天幕オーニングの隙があつたので蟹はボースプリツトに足をかけ、天幕オーニングの隙間から甲板へ這上はひあがつたのだと知れたのだ。そこで余はをのふるつて圓材えんざい切斷せつだんした。そして蟹の來襲らいしふ遮斷しやだんした。
 其後そのご今迄いまゝで余等よら此種このしゆ危險きけん遭遇さうぐうしたことはない。けれども蟹が全然ぜんゞゝ余等を見捨てたかといふにさうでない。彼等は依然としてその鐡塊てつくわいの如き鋏爪ヒンサークロース船側ふなべりを叩いて居る。
 余は今その不愉快ふゆくわいな音を聞きつゝ筆を執りつゝあるのだ。余は他の四個の消息せうそくと同じく、此書これをも世界の何處いづこの人の手にか届くやうに、火球フワイヤバーンに結び付て此處こゝから放さうと思ふ。
 あゝ!余はすでにペンを走らすべくあまりに疲勞ひろうを感じた、赤團々せきだんゞゝたる太陽たいやうは、今やまさとほき彼方の地平線下ちへいせんかに没し去らんとして居る。寂しい夜が又るのだ。最早何事もいふことはない。余及び余の妻子もさいはひにしてほ未だ健全である。されど    !?
 余は忍ばなければならぬ。この恐るべきタイム壓迫あつはくたいして、余は余みづからを制仰コントロしなければならぬ。吾々われゝゝ到底たうてい助かる見込みはないのだ。けれども、吾々われゝゝ勇氣ゆうきを振ひ起して、すべての脅迫おびやかしに堪へて行く積りである。是は必ずしも余の愚痴ぐちではないのである!!



"From the Tideless Sea"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Transrated by 阿武天風




※rubyタグを使用したため、IE(5.0以上)以外のブラウザではルビが適応されず、()でルビが表示されます。なので、できればIE(5.0以上)を使用して読んでいただければ、より楽しめるかと思います

   ▲人肉のふたのか

 余は此蟹このかにの大群が今迄いまゝで何處どこに隠れて居たか、又如何にして人肉をくらはんと欲するに至つた、そんな事は知ることはできない。が、彼等は或は一種の好奇心かうきしんつて、余のこの絶望ぜつばうに囚はれた船を襲ふて見たのかも知れない。
 余は又うも考へる。繁り重なつた海草かいさううへに現はれた黒色こくしよく船體せんたいを、彼等は何者かの死骸しがと見て、それをはさみくらはんがめに、大擧たいきよして船體せんたい包圍はうゐしたのではあるまいか。しさうだとすれば、船側ふなべ鐡板てつぱんは彼らに取つて、恐しく靱強タツフかはと見えたに相違さうゐない。それは兎に角彼等が船を襲ふた理由りいうたしかに解らないが、彼等の鋭敏な嗅覚に依つて、吾々われゝゝ親子三人の存在を嗅ぎ付けて、ノソゝゝやつてたのだとすれば今後共この危險きけん屡ゝしばゝゝ起るものと覺悟かくごしなければならぬ。余は野豚の一頭位はけつして惜しまぬ。絶望といふ運命が吾々われゝゝまへに立つて、吾々われゝゝ生活せいくわつの線を切斷たちきらうとして居る矢先であつても、貴重きちよう糧食りやうしよくとしての野豚はけつして惜しむに足らぬ。が、吾々われゝゝ三人がこの醜い敵に依つて、くらつくさるゝといふ事は到底たうてい忍びべきでない。

"From the Tideless Sea"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Transrated by 阿武天風





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