Sigsand Manuscript

ウィリアム・ホープ・ホジスンとその周辺

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   ▲手斧てをの短銃ピストルひつさげて

 
 余はこの或る安心を求めるやうな質問にたいして、別に適當てきたうこたへを見出すことができなかつた。
 『オヤまた何だか聞えるやうですね。』と妻がいふ。
 『ウム成程なるほどまだ何かコトゝゝいつているやうだな。』
 せいでも何でもない。正に舷側ふなべりでコトゝゝ音がする。
 『早く上甲板うへへ上りませう。到底とても這麼こんな氣味きみわるところにはられませんわ。病氣びやうきになりますよ。』
 妻にすゝめられて上甲板うへに上がつたが、わづか五分間程しづかであつたきり、今度はきはめて明らかな音が聞え始めた。余は妻を食堂サルーンに連れて行つて其處そこで待たせ、船室キヤビンから短銃ピストルを持出し彈丸たまめてポケツトの中にぢ込み、食器室パントリーから牛眼燈ぎがとうを出してそれに火をてんじた。
 うして上甲板うへに出た余は、後檣ミヅンマストの根元にかけてあつた手斧てをのひつさげ、さききに激しい音のした左舷側さげんそくを覗いて見た。しかし余は其然そこで何者をも見出すことができなかつた。そこで余は後部最上甲板ブープから船尾スターンを見たが、此處ここにも何等なんら怪しむべきものはなかつた。もつとも怪しの音は水線下すゐせんかでするのだから。上甲板うへから海面かいめんを覗いたくらゐでは、何者も見ることができなかつたのが當然たうぜんだつたかも知れない。けれども、場所が場所、事情じゞやう事情じゞやうであるから、余はこれつて少なからず理性の平調へいてうを破られたこと勿論もちろんである。

"From the Tideless Sea"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Transrated by 阿武天風

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