Sigsand Manuscript

ウィリアム・ホープ・ホジスンとその周辺

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   ▲慘澹さんたんたる大破壊だいはくわい光景くわうけい

   
 朝餐てうさんを済ませて余は十分四邊あたりを警戒しながら、船内の檢分けんぶんに向かつた。しかし打明けていへばあま心持こゝろもちのよいことではなかつた。何しろその正體しやうたいこそ見届けることができなかつたが、前代未聞ぜんだいみぶん怪物くわいぶつが暴れはつたおそれがあるので、ウカと出て行かうものなら、余は余の唯一ただひとつしかない生命と一緒に、その怪物くわいぶつの犠牲とならなければならぬかも知れぬ。さうなればその必然の結果けつくわとして、この地獄ぢごくの海の如き恐しいところに、妻と娘とをのこさねばならぬばかりでなく、やがては又彼等かれら惨酷むごたらしい運命におちいるにきまつて居る。
 余は這麼こんなことを考へながらたつを排して大食堂サルーンへ入つて行つた。何たる恐るべきことであらう?余は此處ここで驚くべき不思議な光景くわんけいを見た。それは大食堂サルーンかこんだ六個むつ船室キヤビンの扉がことゞゝく目茶々々に破壊はくわいされてあつたのである。前夜しきりに鐡槌てつづちふるつて何物かを破壊はくわいするやうな音のしたのは正にこれである。さるにしても果して何者の所業しわざであらうか。無論吾々われゝゝ親子三人を除いては、この茫漠ぼうばくたる大海たいかいの果てに、かゝ所業しわざをなし得べきものは一にんもない筈である。
 まへ一寸ちよつと述べたとほりに、船を包圍はうゐした林の如き海草かいさうの中には、巨大なる大章魚オクトパスんで居て、時々その丈餘ぢやうよの足をふるつて吾々われゝゝを襲ふことがある。釣鐘つりがねの如き頭をニユツと現はし、數十呎すじゆうフィートもあらんかとおぼしき八本の足を立てゝ、船も人も一呑ひとのみと踊りかゝつてるときは、決して愉快ゆくわいなものではない。けれどもそれがめには、上甲板全體じやうかんぱんぜんたい天幕アーチングを張り詰め、そのすそ船側ふなべりに取つてあるので、上甲板うへ這上はひあつて暴威ばういたくましふすることはできない。
 余はかくの如くにして久しくこの大章魚オクトパスためにはなやまされた。けれども前夜らいの怪しい物音と、この慘澹さんたんたる大破壊だいはくわいをあの海の大入道おゝにふだうあへてしたのだとは、うしても信ずることができなかつた。

"From the Tideless Sea"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Transrated by 阿武天風





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